ギターという楽器の歴史
- 2024/11/22 10:40
- カテゴリー:その他
半世紀も前に読み漁った本の内容がまとめられたサイトを見つけました。
個人的には、その後の研究により、今は当時よりも明快に把握できる時代になっていると感じてます。ですが、思い起こせば半世紀前は古楽研究の黎明期で「何処に何が残る」の確認が精一杯という頃でした。酷いときにはハイドン・モーツアルト・ベートーベンの前を全て「前古典」と括っていた程です。
40年ほど前からだったと記憶してますが、楽譜も含めて、当時の音、つまり仕掛け時計やオルゴール、市庁舎の組み鐘の響きと演奏速度が調べられた時期がありました。
この動きの始まりは60年ほど前にオランダに起きた古楽研究です。東京オリンピックの頃ですね。
加えてブリューゲルの「農民の踊り」に代表される絵画を通しても再現芸術としての研究が進んでます。
もちろんブリューゲルが異端派の宗派に染まっていたことも忘れてはいけないのですが、均整の取れた様式美が魅力であるはずのルネサンスが、実はメディチに代表される一部の人々だけのもので、一般庶民は相変わらず1千年間続いた混乱の中世の足かせから開放されていなかったことがこの絵からわかります。
ブリューゲルの絵画は、要素の配分、色のバランス、遠近法、解剖学から動植物や鳥に至るまでルネサンス時代に進歩した科学と学問の総決算です。それに比べて、描かれている人々の混乱から受ける印象は単なる庶民の大騒ぎです。この絵の説明は、いつか時間と体力のあるときにでもできればと思います。
今から70年くらい前に出版された本だったと記憶してますが、人の心拍と呼吸速度は、今と数百年前とほとんど変わってないはずだと書かれてました。もちろん再現芸術としての演奏速度についての考察です。
楽譜上の速度指定は、ベートベンの仲間だったメルツェル(1772-1838)特許のメトロノーム表示がよく知られてます。
ところが有名な音楽家たちからベートベンのメトロノーム速度指定がおかしいと言われてきました。今ではベートーベンの持っていたメトロノームが不良品だったこともわかってます。実際にベートーベンが動きのおかしいメトロノームに怒っていたことも知られてます。彼は瞬間湯沸かし器なみに切れやすい性格で、後に和解したとは言え、一時期はメルツェルとの間に確執もあったようです。
トンデモ速度のベートーベン交響曲CDが世界中で販売されていることをご存知でしょうか。確かにメトロノーム表示速度に沿った正確な演奏かも知れませんが、ほんの少しの読書で回避できる恥の上塗りは避けたいものです。
このような再現芸術に影響する研究は、分野を超えた情報交換が無くして実現できなかったことです。コロナ騒動で学術会議がzoom会議に変化したのは、ラップトップPCの発展とインターネット通信速度の高速化が大きく関与してます。
それにより、古代から残るレリーフと発掘された楽器の同一性、ブダペストで発掘された水圧オルガンの欠片から全容の解明が進み、楽器が再現されてます。次にはその音色や演奏された曲の様子などの研究も進んでます。
科学の進歩は想像以上に速く、自然現象と歴史の因果関係、そして楽器の分類や残された個々の楽器のレントゲン撮影、残された木片の最先端技術による解析、板の表面に残るカビに至るまで驚くほど様々な研究が進んでます。
古楽器に興味のある方は、玉石混交の文献や論文に目を通し、ウィーンのハプスブルク王宮に公開されている世界一の楽器博物館に通うと良いでしょう。
また、ギターという楽器の発生を知ろうとするなら、古代メソポタミア文明や古代エジプト文明、そしてヨーロッパ史に直結する古代ギリシア文明で確認できる撥弦楽器と、その発生の考察が必要です。
そのためには、先ず源泉が中近東や北アフリカ、古代ギリシアであることの確認。そして、その影響でヨーロッパに生まれたギターの前身を紐解き、歴史の淘汰から残った楽器の発展とトーレスが制作した近代ギターまでの道筋を明らかにすることです。
近代ギターは百年前のスペインのギター製作家トーレスに端を発するとされてます。たぶんこれに異論を唱える研究者は少ないだろうと思います。
巨匠タレガとトーレスが同時代に同地域に居たのは歴史の奇跡で、楽器の発展というよりもトーレスによる近代ギターの発明がタレガを生み出し、その影響下で腕を磨いたリヨベート、プジョール、そしてセゴビアやウィーンのルイゼ・ワルカー、アルゼンチンのマリア・ルイサ・アニードに伝わり、さらに次の世代のジュリアン・ブリーム、ジョン・ウィリアムスとその仲間たちへと続きます。